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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)140号 判決

原告 日本国有鉄道

被告 公共企業体等労働委員会

補助参加人 国鉄労働組合

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

1  請求の趣旨(原告の申立)

一、被告が、原告および被告補助参加人組合間の公共企業体等労働委員会昭和三九年(不)第一〇号・同四〇年(不)第一号日本国有鉄道大分鉄道管理局不当労働行為救済申立事件について、昭和四〇年一一月一日付でした別紙命令(命令第二九号)のうち、被告補助参加人組合の申立を認容した部分(主文第一項に掲記の命令)をいずれも取り消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

2  被告の申立

主文第一、二項と同旨の判決。

第二当事者双方および被告補助参加人の主張と答弁

1  請求の原因(原告の主張)

一、被告は、被告補助参加人国鉄労働組合から、昭和三九年一〇月および同四〇年六月の二回に、原告を相手方として申し立てられた請求の趣旨第一項に記載の不当労働行為救済命令申立事件二件につき、昭和四〇年一一月一日付で別紙命令(命令第二九号)に記載の内容による被告補助参加人組合の申立を一部認容した救済命令を出し、その命令書が同年同月二日原告に交付された。

右命令によれば、大分鉄道管理局管内の別府駅、大分運転所および中津保線区の助役らが、使用者たる原告の利益を代表するいわゆる管理者たる地位にあるものとして、被告補助参加人組合の組合員らに対し、同組合を脱退するようにしようようし、また同中津保線区の助役が同組合の組合員の組合活動に干渉し、もつて同組合の運営に介入したとして、原告に対し、右助役らをして、謝罪の文書を同組合に交付させるとともに、同人らに今後それぞれ右のような行為を繰り返さないよう注意を与えるべきことを命じている。

二、(本件命令の事実認定上の違法)

本件命令が、前記助役らの組合運営介入行為と認定したものはいずれも存在せず、その真相は下記のとおりであり、右命令には事実認定上の誤りを犯した違法がある。

(イ) 渡辺溜関係事実

昭和三九年一〇月一〇日、当時別府駅首席助役であつた訴外渡辺溜が、たまたま同駅旅客掛(改札担務)で精算事務を担当していた訴外井上猪熊の部屋を通りかかつたところ、同井上が精算事務机のうえに被告補助参加人国鉄労働組合(以下「国労」または「国鉄労組」ともいう)からの脱退届用紙らしいものをおき考えこんでいる風であつたので、右渡辺が「心配せんでもよい。適当にやつておいたらよい。」という趣旨のことばをかけながら通り過ぎたというのが事の真相である。

その場には他に職員が何人かおり、首席助役が部下の職員に組合からの脱退をしようようするような雰囲気では全然なく、渡辺の発言は日常のあいさつと何ら異ならないものであつた。本件命令では、右の発言を「心配しないで脱退届も出して新組合に入つた方がよいのではないか」という趣旨の発言であつたと認定しているが、まつたく事実と相違する。本件命令も認定しているような国労大分地本の脱退の経緯とこれに対応して大分鉄道管理局が原告本社と連絡のうえ再三にわたり管理者が厳正中立の立場をとるよう指示していた事情を考えあわせると、前記のような渡辺の発言が脱退しようようというような大それた効果を期待してなされたと解することはとうてい吾人の常識が許さない。また本件命令は翌一一日渡辺が井上に対し更に「きのう出したか、心配せんでもいいから、出した方がいいぞ」といつたとの事実まで認定しているが、このような事実は存在しないし、また存在するはずもない。

次に本件命令は、当時の国労大分地本執行委員長ほか国労組合役員三名らが右渡辺から徴した誓約書を事実認定の資料としているが、これは別府駅長室で同人らが渡辺ただ一人を三時間の長きにわたつて取り囲み、こもごも強暴な言辞を弄し、あるいは威圧を加えるなどして同人らが渡辺に対し誓約書の文案を突きつけこのとおり書けと強要し、渡辺が事実と相違するのでこれを拒否するや、同人らは「相手がそういつているのだから書け」と怒号したり、「おまえが素直に書けば一等も二等も減じる」といつたり、あるいは「心配するな、別に何もしない、書きさえすればよいのだ」と執ように書くように申し向け、「書く」、「書かない」の押問答をくり返すうちに心身が疲労し果て、ついに持病の狭心症の発作の徴候が現われるにいたり、この発作を避けるため、やむを得ず言われるがままに文案どおり書き写したにすぎないものであつて、右井上猪熊に対する言葉の真相は前述のとおりである。

要するに、本件命令の以上の認定は、渡辺の何でもない日常茶飯の発言をすなおに見ないで、あまりにも神経質に取り扱つた結果、これを不当に拡張して解釈したものであつて、とうてい納得することができない。

(ロ) 小野正三関係事実

昭和三九年一〇月一二日一二時三〇分ごろ、大分運転所助役であつた訴外小野正三が自席にいたところ、同人の隣席(技術掛の席)に電話がかかつてきた。その時ちようど昼休みで他に誰もいなかつたので、他人の席の電話ではあつたけれども小野が受話器をとつたところ、国労大分地本前委員長の甲斐信一からであつて、甲斐は同運転所修車掛の訴外足立直泰がいるのかと思つて電話をかけたが、いないということであるから、もし足立を見かけたら、甲斐が訴外池辺睦男に連絡してほしいと言つていた旨伝言してくれとたのまれた。小野はこれを承知したが、ほとんど気にも留めず、その後も碁に夢中になるなどしていたため、すつかり忘れていたところ、二時間くらい後になつて、いつものように職場巡視に出かけた折、たまたま運転所二階建庁舎前で足立と行きあつたので伝言を思い出し、右の趣旨を同人に伝言したのである。このようなことは吾人の日常よくあることで、小野の行動は甚だ常識的であつても少しも不自然なところもなく、ましてや小野の場合も前記渡辺と同様大分鉄道管理局から再三にわたつて管理者は厳正中立の立場をとるよう指示を受けていたことを考えあわせると、疑念もおこさせるところはない。

ところが本件命令は、小野が右伝言に際して、「是非甲斐前委員長に会つてほしい。助役としての立場からはいえないが、小野個人としては甲斐前委員長に協力してやつてほしい旨を迫つた」と認定している。この事実認定も前記渡辺溜関係の事案と同じようにすなおに事実を見ていない。前記の伝言の経緯だけからいつても、小野がこのような重要な発言をするということは甚だ不自然である。本件命令の右認定は極めて予断的であつて、とうてい承服することができない。

(ハ) 古村達夫関係事実

昭和四〇年二月ごろ、中津保線区首席助役であつた訴外古村達夫が同年同月一一日午後七時ごろから九時二〇分ごろまで中津市内所在のバー「ツアールスカヤ」で同保線区軌道掛の訴外小野一徳ほか数名と一緒になつたところ、小野が他の一人と議論をはじめたので、古村が、「大分方面の人間は仲よくしよう、考え方がちがつても各人自分の信ずる途をいくべきだ、こんな場所でさわぐのはいけない」という趣旨の注意を与えただけのことである。また右同月二二日の勤務時間終了後、中津保線区事務所で上田百治と坂本正勝との間で組合関係の問題について激論がかわされたが、古村はその議論に加わらず、かえつて議論はいい加減でやめて愉快に一夕を過ごそうと考え、中津市内の酒場「二八万石」に一緒に行き、そこで議論をつづける両名を制止したのである。以上が古村達夫関係事実の真相である。

三、(本件命令の事実認定および法解釈上の違法)

本件命令はまた、前記助役らを原告の利益を代表するいわゆる管理者たる地位にあるものとしての組合運営介入行為があつたとして、直ちにその行為につき原告自体に責ありとし、かつ、前記申立外の右助役らに対し謝罪文を出すよう命ずることを原告に命令しているが、この点についても右命令には下記のとおり事実認定および法解釈について誤りを犯した違法がある。

(イ) 本件各助役と使用者たる原告の利益を代表するいわゆる管理者との関係

本件命令は、被告が認定した事実につき、これを原告の責に帰せしめる理由として、「各助役は被申立人の利益を代表するいわゆる管理者であるから、被申立人が前記のような指示(厳正中立の立場を維持し不当労働行為を行なうことのないようにとの指示)を各現場幹部に行なつていたからといつて、それら助役の行為につき、被申立人は不当労働行為の責を免れるわけにはいかない」旨の判断を示した。

しかしながら、労働組合法第七条は、「使用者」に対して不当労働行為を禁じ、同法第二七条は、労働委員会が「使用者」の不当労働行為に対しいわゆる救済命令を発しうることを規定しているのであるから、本件において「使用者」たる原告日本国有鉄道(その代表者たる総裁)に行為者としての責任を帰せしめるについては、法理的にこれを納得せしめるに足る十分な根拠がなければならない。

ところで、本件命令は右のように、本件直接の行為者として右命令の認定した各助役が、ただ被告の「利益を代表するいわゆる管理者である」ことのみを理由としてあげるにすぎない。そもそも助役は、管理者といつても、上司(直接には各現場長、たとえば駅長、機関区長など)の指示命令にしたがつてこれを補佐し、その業務の処理を担当しているにすぎないものであり、せいぜい助役の場合には上司不在のときその業務を代理するだけであつて、一般的に原告の代理権を付与されているわけではない。しかも本件においては、本件命令も認定するとおり、上司から前記のような厳正中立を守るよう度々指示を受けており、上司の意思がそこにあること、そしていやしくも不当労働行為にわたるような行為に出ることは上司の意思に反する旨を十分に認識していたものであること、したがつてまた本件命令の認定するような事実が仮にいくらかでも認められるとしても、右に述べたとおり原告はかねてから助役らに対し厳正中立の立場を守り、いささかでも不当労働行為ないしその疑いを生ずることのないよう指示し注意を喚起していたのであるから、助役らの右行為はいずれも当該助役らと当該職員らとの間のまつたく職務外の私的な生活関係においておこつたものであることが明らかなことなどの諸事情を考えると、これら助役の行為につき、これを使用者たる原告日本国有鉄道の行為と観念することは、一般法理上とうてい納得しがたいところである。

本件命令は、当該助役らが原告の「利益を代表する」者であるとか、「管理者」であるとかということを理由としてあげている。助役は公共企業体等労働関係法第四条第二項にもとづく昭和四〇年八月一六日公労委告示第一号により実質上労働組合法第二条第一号に所定の使用者の利益を代表する者に該当するとされているところから、おそらく右法文に規定する監督者的地位にある者ないし使用者の利益を代表する者の概念を援用する趣旨かも知れない。しかし、右の規定はこれらの者を労働組合に参加させると、労働組合本来の性格が濁つてしまうということ、すなわちそれらの者が、その立場上労働組合員としての立場を純粋に貫きとおすことを期待し難い場合を生じ、そのため労働組合の純粋性が阻害されるおそれがあり、労働組合法制定の趣旨を没却することもありうるという立法政策的考慮にもとづいて設けられた規定である。したがつて、これらいわゆる管理者ないし利益代表者の労働関係上の行為が法理的に使用者の行為としての効力をもつものであるか否かの判断について、右の規定が援用されるに価しないものであることは、それが前記のように使用者に対する帰責の特例を定めたものでないことから当然であるといわねばならない。

(ロ) 本件命令を原告が各助役に命じうる根拠

前述のように本件命令は、その基本的な理論構成において重大な欠陥をもつており、そのことは右命令がかような欠陥を顧慮妥協した結果として、その主文第一項のような命令を出し、その理由中において、「救済命令の内容としては、上記のような事情を勘案し、主文の如きものをもつて、もつとも適切妥当なものと認める」と述べている点からも容易に窺われる。かような妥協の結果、右主文の命ずる命令はそれ自体甚だ法的に納得しがたい内容をもつものとなるにいたつている。すなわち、右主文は、原告(その総裁)に対し、本件各助役らに謝罪文を出させるよう命ずることを主要な内容とするものであるが、およそ総裁が部下たる職員に命ずることができるのは、いうまでもなく日本国有鉄道法その他の法規にもとづく日本国有鉄道の業務に関するものに限られるのであつて、右のような文書を出すべき旨の命令は正当な業務上の命令にあたらない。けだし仮に本件命令の認定するような行為が各助役にあつたとしても、それは使用者たる原告の意思にもとづかない、否むしろ原告の意思に明白に反する各助役の個人的行為であり、それが業務上の行為でないことはいうまでもないからである。したがつて仮に本人が本件命令の命ずるような内容の謝罪文を出すとしても、それは業務上の行為ではないし、謝罪文を出すよう命ずることもその意味からいつても業務上の命令ではあり得ないし、また各助役においてたとえこのような命令がなされてもこれに従うべき法律上の義務のないことも亦明白である。なお、本件救済申立事件の当事者でない各助役が直接本件命令の受命者としてこれに従う義務をもたないことはいうまでもないところである。

四、よつて原告は、本件命令のうち被告補助参加人組合の申立を認容した部分(主文第一項に掲記の命令)の取消を求めるため、本訴請求におよんだ。

2  請求の原因(原告の主張)に対する被告の答弁

一、請求の原因第一項の事実は認める。

二、請求の原因第二項の事実は後記のとおり認める部分を除き、すべて争う。

被告が本件命令の理由中において示した事実は、すべて適法な手続と証拠にもとづいて認定したものであり、下記のとおり原告の主張するような事実認定上の誤りはない。

(イ) 渡辺溜関係事実

(A) 昭和三九年一〇月一〇日の事実のうち、当時別府駅首席助役であつた訴外渡辺溜が同駅旅客掛(改札担務)で精算事務を担当していた訴外井上猪熊の部屋を通りかかつたこと、そのとき井上が精算事務机のうえに国労からの脱退届用紙をおき考え込んでいる風であつたこと、部屋の中には他の職員が何人かいたことは認める。渡辺が「心配せんでもよい。適当にやつておいたらよい。」という趣旨のことばをかけながら通りすぎたにすぎないこと、その場は渡辺が部下職員に組合からの脱退をしようようするような雰囲気では全然なく、渡辺の発言は日常のあいさつと何ら異ならないものであつたこと、渡辺の発言が脱退しようようというような大それた効果を期待してなされたと解することは、とうてい吾人の常識が許さないことは争う。その余の事実は不知。なお、原告は、「本件命令では、右の発言の趣旨を『心配しないで脱退届を出して新組合に入つた方がいいのではないか』という趣旨の発言と認定している」と主張するが、そうではなく、本件命令は、渡辺が井上に対して、「管理局の人はほとんど国労を脱退して新組合の方に入つたから、同人も心配しないで脱退届を出して新組合に入つた方がよいのではないか」という趣旨のことを認定している。

昭和三九年一〇月一一日の事実のうち、渡辺が井上に、「きのう出したか、心配せんでもいいから出した方がいいぞ」といつたという事実は全然存在しないし、また存在する筈もないという点は争う。

昭和三九年一〇月一七日渡辺が誓約書を作成した事実のうち、右誓約書は当時の国労大分地本中田執行委員長ほか国労組合役員三名が渡辺から徴したものであること、その原案を中田委員長が書き、渡辺がこれを浄書し署名したものであることは認める。誓約書に記載の事実が真相でないとすることは争う。その余の事実は不知。

(B) 原告は昭和三九年一〇月一〇日の事実に関して、「その場には、他に職員も何人かおり……脱退をしようようするような雰囲気では全然なかつた」と主張するが、渡辺溜自身も、被告委員会の審問において、「そのときにはすぐそばには(人は)いなかつたように思います。二、三メートル離れたところには、二、三いたような気がします」、「事務室の中にいたので三メートル位い横には四、五人の席がありまして、そこに職員がいたように思います。」と証言しているのであつて、そのとき脱退をしようようするような雰囲気では全然なかつたということにはならない。また被告委員会も脱退しようようが他の職員にも聞こえるような声で行われたと認定しているわけではないのであつて、井上猪熊は同人「一人にわかる程度」の声で脱退をしようようされたと証言している。

次に原告は、国労大分地本の脱退の経緯と、当時大分鉄道管理局が再三にわたり管理者に厳正中立の立場をとるよう指示していた事情を考えあわせると、渡辺助役が脱退のしようようをしたということはとうてい吾人の常識から考えられないと主張する。しかし、そのような指示があつたからといつて、助役中に命令書で認定したような発言をする者がいなかつたということにはならない。指示があれば一般的には指示どおりの行動を期待できようが、他面、再三にわたつて指示したことは厳正中立の立場を逸脱する者の生ずる可能性のあつたことを裏書することにもなる。要するに、指示と事実とは別個に判断しなければならないものである。

なお、渡辺助役の誓約書については、命令書理由第二、2、(4)、ロの後段に掲げたような事情から判断して、渡辺助役が心身疲労の果て、ついに事実に反することをこの誓約書に書いたものとは認められない。

(ロ) 小野正三関係事実

(A) 昭和三九年一〇月一二日、昼の休憩時間中に大分運転所助役であつた訴外小野正三が、国労大分地本前執行委員長甲斐信一から電話で、同運転所修車掛の訴外足立直泰に甲斐が訴外池辺睦男に連絡してほしいといつていた旨伝言してくれとたのまれ、同日昼休すぎ運転所二階建庁舎前で足立に会つた際、甲斐からの依頼を伝えたことは認める。小野が右伝言の際、足立に対して、「是非甲斐前委員長に会つてほしい、助役としての立場からはいえないが、小野個人としては、甲斐前委員長に協力してやつてほしい」というような重要な発言をしたということは甚だ不自然であつて、そのように認定した命令は、極めて予断的であるとする点は争う。その余の点は不知。

(B) 原告は、本件命令において、訴外小野正三助役が訴外足立直泰に対して国労大分地本前委員長甲斐信一に協力してやつてほしい旨迫つたと認定しているが、小野助役が甲斐前委員長から電話で足立に対する伝言を依頼された際、同助役は「承知したが、ほとんど気にも留めず、その後も碁に夢中になる等していたためすつかり忘れていたところ、二時ぐらい後になつて……伝言を思い出し」、足立に伝言したにすぎないのであり、このような経緯だけからいつても、この認定は甚だ不自然であると主張する。しかし、右のような経緯だからといつて、小野助役が命令で認定したような発言をしなかつたということにはならないし、被告委員会の審査においては、右のような経緯について、原告からの主張もなかつたし、小野助役の証言もなかつた。なお原告は、前記渡辺溜助役についてと同じく、大分鉄道管理局からの指示についても言及しているが、この点については、前記(イ)・(B)について述べたと同様である。

(ハ) 古村達夫関係事実

(A) 小野一徳との関係について。昭和四〇年二月一一日夕刻、中津保線区首席助役であつた訴外古村達夫が中津市内所在のバー「ツアールスカヤ」で訴外小野一徳らに出合い同席したことは認める。その際古村が小野に対し、「大分方面の人間は仲よくしよう、考え方がちがつても各人自分の信ずる途をいくべきだ、こんな場所でさわぐのはいけない」という趣旨の注意を与えたにすぎないという点は争う。その余は不知。

上田百治との関係について。昭和四〇年二月二二日午後五時五〇分ごろ、中津保線区事務所において同保線区技術掛の訴外上田百治と同坂本正勝が組合関係の問題について議論したこと、その議論ののち、古村が右上田および坂本の両名に酒をのみにいこうといいだし、三名が酒場「二八万石」に赴いたことは認める。古村が中津保線区事務所における前記の議論に加わらなかつたこと、中津市内所在の酒場「二八万石」においても議論をつづける両者を制止したことは争う。その余は不知。

(B) 上田百治との関係について。原告は保線区事務所における事実に関しては、古村助役は上田と坂本との間の「議論に加わらず」また酒場二八万石においても、「議論をつづける両名を制止した」というのが事の真相であると主張する。しかし、保線区事務所において椎田線路分区組合員の「要請書」のことが話題となり、これについて古村助役が印鑑盗用などの点について発言したこと、また二八万石においては人事異動のことが右三者の間で話題になり、さらに訴外宇都宮職員が同席したのちは、古村助役は上田と話をしていたものであるということについては、当の古村助役も証言しているのであつて、原告の主張するような事情とは異なつている。

三、請求の原因第三項の事実は争う。被告委員会が本命令においてした事実認定および法解釈については、原告の主張するような誤りや違法は存在しない。

(イ) 原告は、助役が「使用者」ではないから、本件命令が各助役の行為につき、「使用者」たる原告に不当労働行為の責任を帰せしめたのは違法であるとの趣旨の主張をする。

しかしながら、原告も認めるとおり助役は実質上労働組合法第二条第一号に該当する者であり、同号に該当する者は、労働組合に対する関係においては使用者としての立場で行動するものであつて、その行為は不当労働行為の関係においても使用者の行為として評価されるべきものである。もし原告の主張するとおりだとすれば、国鉄では総裁が直接組合に対する支配介入行為をしないかぎり不当労働行為とはならないことになる。なお、この点に関連して、被告委員会が郵政大臣にあてて発した救済命令に対し、その効果が帰属するものとして、国がその取消しを求めて適法に行政訴訟を提起しうるとされていること(東京地裁昭和三七年(行)第三二号事件参照)もこの際想起されるべきである。

また原告は、かねて原告が各助役に対して、私的な生活関係においても厳正中立の立場を維持して不当労働行為を行うことのないよう注意を喚起していたから、もし助役が命令で認定したような行為をしたとしても、それは全く職務外の私的な生活関係における行為と解すべきであると主張するが、そのような論理は不可解である。仮に一歩譲り助役らの行為が私的な生活関係の行為であつたとしても、私的な生活関係の行為は不当労働行為にならないという理由はない。なお、不当労働行為を行うことのないよう助役らに指示していたから、助役らが不当労働行為を行なつたはずがないなどといえないことも当然である。実際に助役らが行つた行為についてみると、渡辺助役および小野助役は、いずれも勤務時間中にそれぞれの事業場において命令で認定したような行為を行つたものであり、また古村助役は、勤務時間外ではあるが、「自分には局長がついている」とか、「自分は将来局の人事を扱うところにいくようになるかもしれない」などといつて職員に仕事や身分上のことで不利益が及ぶかもしれないことを暗示し、職員の組合活動に干渉したものであつて、これこそ組合運営に対する介入行為である。

(ロ) 原告は、助役らに謝罪文を出させるよう原告に命じた本件命令は業務の範囲外のことを命ずるものであつて違法であると主張する。

たしかに労働委員会の救済命令は、通常使用者(本件にあつては使用者たる国鉄の代表者、総裁)にあてて出されている。そうであるならば、原告のこの主張は、もし前記(イ)に関する原告の主張が認められない(助役らの行為についても使用者の不当労働行為が成立すると認められる)とすると、助役らではなく国鉄総裁に対して、国鉄労組に陳謝するよう命令されるべきであつたとの趣旨であろうか。国鉄職員を雇用し、その組合と団体交渉をすることが、原告の業務の範囲に入るならば、その組合の運営に介入したかどで労働委員会から命ぜられて組合に陳謝することも、当然に原告の、したがつて総裁の業務に入るし、その原告の利益を代表する助役の業務の範囲にも属するというべきである。したがつて、総裁がその注意喚起に反して、組合運営に介入する言辞をなした助役らに対して、当該組合に陳謝することを命ずることは、当然なしうるものと解すべきである。

3  請求の原因(原告の主張)第三項に対する被告補助参加人の反論

原告は、本件命令について、助役らが行つた不当労働行為の責任を使用者たる原告に帰せしめるのが不当であるとし、(a)助役には一般的に原告の代理権が与えられていないこと、(b)助役の不当労働行為はまつたく職務外の私的な生活関係においておこつたものであること、(c)助役に謝罪文を出させるように命ずることは業務上の行為にあたらないことを理由としている。しかしながら、右のごとき原告の見解は、次に述べるとおり不当労働行為制度の根本的な誤解ないし曲解にもとづくものであつて、まつたく誤つている。

(イ)  不当労働行為の行為者と使用者の責任

原告は、助役に一般的な代理権を付与していないことをもつて、助役の行為を使用者たる原告に帰責させることの不当性の理由にあげている。

しかしながら、右の主張は財産取引関係における代表者ないし代理人による法律効果の帰責観念と労働関係における利益代表者による不当労働行為責任の帰責の観念を完全に混同している。財産関係の取引においては、行為者が一般的に代理権を有するか、または個別的に代理権が付与されていない限り、原則として行為者の法律行為の効果を本人に帰属させえない。しかし、不当労働行為制度はかかる財産上の取引関係を規制するものではなく、労働関係における使用者の不当な行為によつて発生した違法な結果(法律上の効果のみならず事実上の効果)を排除し現状を回復せしめる手続なのである。この根本的相違を看過して財産法上ないし市民法上の個人責任の原理を不当労働行為制度に持ち込もうとするところに基本的な誤りがあるのみならず、かかる見解は右制度そのものを有名無実化し、否定するものである。すなわち、不当労働行為において帰責の基準となるのは、その行為が労働組合法第二条第一号に規定する使用者の利益を代表する者であるか否かであつて、使用者の利益代表者によつて不当労働行為がなされたものである限り、それを使用者が指示したかどうか、ないし欲したかどうかということは無関係である。労働組合法が右のごとき者を労働組合に加入せしめ得ないものとしている法意は、使用者の利益代表者は労働関係においては使用者のために行為するものであり、労働者の利益と対抗するものであることの本質に着目したからにほかならない。したがつて、そこにいう「使用者の利益を代表する者」というのは、法律上の利益代表のみならず、現場機関の職制など使用者の事実上の代表者も含む概念である。そして、不当労働行為制度は労働者およびその団体に対して使用者が不当な影響を与え、これに支配介入するのを排除することを重要な目的としているのである。かかる法制度の目的よりすれば、法が不当労働行為として禁止している対象者は、使用者本人またはその代表者ないし代理人に限定されるべきはずはなく、使用者の事実上の利益の代表者を含めた「使用者側」の者に及ぶのであり、その行為の事実上の効果をも使用者に帰せしめているのである。被告も正当に指摘しているように、もし原告のごとき見解をとるならば、総裁自身が不当労働行為をするか、あるいはこれを指示しないかぎり、不当労働行為は成立する余地がないことになるであろう。

そもそも個人責任を原則とする民法においてさえ、第七一五条の使用者責任がほとんど無過失責任に近く解釈運用されているのは、今日の社会の必要性と公平の観念を尊重して、これに法律を合理的に適応させていこうとする英知の所産である。すなわち、今日では事業が客観的存在になり、被用者を手足として事業活動を営んでいるのが社会の実態となつており、そこにおいては被用者の行為と使用者の選任監督とを一応別個の個人の行為として切りはなして考えるという個人主義的法観念は維持されなくなつているのである。ましてや労働関係のように使用者の利益と労働者の利益とが集団的に対立している次元において、右のような個人責任論が通用しないのは当然である。ことに、その「責任」というのは、法制度のあり方から合目的的に考えられねばならない。同一の事象でも刑事手続と民事手続とではその責任論も変つてくるのである。本件において重要なことは、あらゆる次元に共通な不当労働行為責任一般ではなく、公労委の救済手続のもとにおける不当労働行為責任なのである。そして不当労働行為手続の目的は、労使関係を不当労働行為がなかつたと同様な状態に回復するところにある。したがつて右手続においては、不当労働行為の現実の行為者が相手方になるのではなく、その使用者(多くは会社)が相手方になる。これは右手続が行為者の責任の確定にあるのではなく、その結果の是正、すなわち現状回復にあるから、命ぜられた現状回復の措置をなしうるものでなければ相手方にする意味がないからである。ここにおいては、「現状回復の責任」が中心的課題であり、それとの関連において責任論が考察されねばならないのである。この場合、「現状」回復とは、侵害行為以前の労使関係に戻すことであるから、それは個人間の関係ではなく、あくまで労使の集団的関係が基礎になつている。労使の集団的関係における基準は、前述のとおり使用者の利益と労働者の利益であり、前者の利益を代表する者の行為によつて、労使関係が侵害された以上、使用者がその回復すべき義務を負担することになる。かかる集団的労使関係の現状回復を誰になさしむべきかという観点において、不当労働行為責任は構成されるのであり、行為の個人的な不法行為責任や刑事責任とは観点を異にするのである。したがつて、原告が不当労働行為責任を労働組合法第二八条の刑事責任と同一視しようとしているのは、その基本において誤つているといわねばならない。

そのうえ原告は、不当労働行為の行為者と労働組合法第二八条の行為者とが同じであるかのごとく法の趣旨を誤解しているようである。法文をみれば明らかなように、労働組合法第二八条で処罰されるのは、確定した救済命令に対して違反する行為をした者であり、不当労働行為をした行為者ではない。確定した命令に違反した場合に違反者に刑事責任が生ずるということと、不当労働行為の使用者の責任とは別の次元の問題であるから、右の罰則の存在をもつて使用者の不当労働行為責任は、「行為者」としての責任に限定されるものであるということにはならない。たとえば本件命令が確定した場合に、原告が助役らに陳謝文を交付するよう命令せず、あるいはそのような行為を繰り返さないよう注意を与えないならば、第二八条の刑事責任が生ずるであろうが、原告がそのようなことをしても助役が従わなかつた場合にまで原告に刑事責任が生ずることはない。このように刑事責任の根拠は確定命令違反の行為責任であり、不当労働行為責任ではない。

(ロ)  助役の私的生活関係

本件の助役らの不当労働行為たる行為は、勤務時間中にそれぞれの職場で行なわれたものであつて、勤務時間中および勤務場所では「労働者が使用者の支配下(使用者に対する従属関係)にある」と考えることは理の当然である。これを私的生活関係であるとする原告の所論には、いささか驚かざるをえない。もしその意味するところが、原告の命令ないし指示による行為ではないから、業務としてなしたものではないという趣旨であるならば、前項で述べたように使用者(つまり原告の総裁しかいない)の意思ないし主観が不当労働行為の基準になるものではないことを繰り返すにとどめる。

原告の論ずるように、使用者の意思にもとづかない、またはその意思に反する行為であれば、それが助役らの個人的行為になるなどということは、一般の不当労働行為責任論においてさえ全く採用されていない極端な主観主義理論である。たとえばタクシー会社の運転手が営業中スピードを出しすぎて通行者を轢き殺したら使用者の責任はどうなるか。この場合タクシー会社の社長は、自分は通行者を轢き殺すことを欲しなかつた。またスピードを出しすぎてはいけないと指示していた。だから運転手の行為は使用者の意思にもとづかない、むしろそれに反する行為だから個人的行為である。したがつて、使用者は責任を負わないなどといえるであろうか。ましてや前述のとおり、労働関係を規制する不当労働行為の場合において、使用者の主観が基準となり得ないことは当然である。

(ハ)  本件命令の主文と救済手続の法的性質

原告は、本件命令の主文について、助役らに謝罪文書を出させることを総裁が命ずることはできないし、助役もこれに従う義務がないと述べている。

原告の見解は、基本的には不当労働行為の救済手続の法的性質の誤解にもとづくものと考えられる。救済手続は本質的には行政手続である。その目的は裁判におけるような権利(法律効果)の確定にあるのではなく、違法な侵害結果(事実上の効果)の排除にある。したがつて命令の主文も裁判の場合と本質的に異なるのである。いかなる不当労働行為に対して、いかなる救済を与えるかということは、何がその事態に一番適したものであるかという見地からきめられなければならない。法律が救済命令の主文について何ら定めるところがないのもそのためであり、公労委は合目的的にもつとも適当と考える主文をきめることができるわけである。

このように不当労働行為の救済は、裁判上のそれではなく、行政手段による救済であるから、裁判における既判力のごとき厳格なものではないし、またそうあつてはならない。使用者に対して、現状回復の一つの手段として、使用者の利益を事実上代表する不当労働行為の現実の行為者に陳謝文を出させるとか、これに注意を与えるなどということは、一つの適切な方法であつて、行政庁たる公労委の自由裁量に委ねられていることである。原告はまた、それが業務上の行為にあたらないというが、これは論旨不明であり理解しがたい。労使関係における禁止規範に違反した者に対して、その是正を命ずるのが、どうして業務外の行為であるのか。労務管理はまさに企業の業務であり、その労務管理にあたつて不当労働行為をするなと指示することは、使用者の業務上の行為そのものである。その際、使用者の利益を代表する者が使用者の意思に反して不当労働行為を行つたかどうかは、前述のとおり問題ではない。総裁の意思に反する職員の行為はすべて職員の私的行為であり、総裁は関知しないし、その是正も命じ得ないなどということになれば、企業の有機的結合そのものを否定することになるであろう。民法の不法行為責任論においてさえ、被用者が使用者の意に反し、その地位または権限を濫用して生じた結果に対しても使用者責任が認められていることを、この際想起すべきである。

4  被告補助参加人の主張(不当労働行為の事実関係について)

(イ)  本事件の背景

(A) 国鉄労組は昭和二一年結成され、同二二年六月五日単一組織に編成されて以来、今日にいたるまで「国鉄労働組合員の生活と地位の向上をはかるとともに、日本国有鉄道の業務を改善し、民主的国家の興隆に寄与する」ことを目的として行動してきた全国的組織の労働組合である。

国鉄労組は昭和二三年七月のマツカーサー書簡による同年政令第二〇一号および同二四年の公労法制定以後、争議権を剥奪され、その代償という名目のもとに強制仲裁制度が設けられたため、それ以後の数年間、国鉄労組は団体交渉の活用と公労委による調停仲裁制度の機能に期待して、ストを中止させ順法的態度を明らかにした。

ところが、昭和二五年の第一回仲裁裁定以来、賃金の基準に関する仲裁裁定は昭和三三年にいたるまで五回あつたが、政府ならびに国鉄当局によつて一回もそのまま実施されたことがなく、その不履行額は二二七億円余に達する有様であつた。また国鉄当局と組合との間の賃金に関する団体交渉も、労組側の要求に対し、国鉄当局がほとんど常に零ないしそれに近い回答しかしないため、本来の団体交渉としての実質を有しなかつた。このようにして賃金決定に際して組合の要求は十分に反映されず、争議行為禁止の代償措置の機能が果たされない実情を見て、国鉄労組は組合結成の目的たる組合員の生活と地位の向上をはかるため、やむなく昭和二七年暮以来遵法斗争を中心とする実力行使を行なつて国鉄当局ならびに政府に反省を求めるにいたつた。国鉄労組の右のような行動に対して、原告は団体交渉を拒み、あるいは組合役員らの解雇その他の懲戒処分を行うなど強硬な態度で対処したため、国鉄における労使関係は険悪な様相を呈するにいたつた。こうした労使間の対立状態を背景に昭和三二年頃から国鉄労組には全国にかなりの地方において組織分裂が生じ、国鉄当局の支援のもとに国鉄労組と対向的な立場を標榜する第二組合が次々と結成された。その後これら第二組合の多くは全国的組織として新国鉄労働組合連合を結成し、これに加入している。

右のような経緯からして、国鉄当局は第二組合に対してきわめて好意的な立場をとり、しばしば駅長、助役などの現場機関の職制を利用して、職員に国鉄労組からの脱退ならびに第二組合への加入をしようようするなど不当労働行為を行つてきた。これに対しては、すでに公労委からいくつか救済命令が発せられているところである。たとえば昭和三五年頃金沢鉄道管理局管内に第二組合たる国鉄北陸地方労組が結成された際、管内の駅長および助役の一部が職員に対して国鉄労組から脱退するようにしようようし、また金沢鉄道管理局自らが国鉄労組に不利な記事を掲載した「金鉄だより」を配布して組合運営に支配介入した事実、さらに新潟鉄道管理局管内において昭和三四、五年頃駅長または助役らが職員に対し第二組合たる国鉄新潟地方労働組合への加入を積極的にしようようし、あるいは第二組合から国鉄労組への復帰を難詰する趣旨の発言をした事実などが公労委によつて不当労働行為と認定せられているのは、まさにその顕著な例にほかならない。

(B) 他方、国労大分地方本部は、国鉄労組の組合員のうち大分鉄道管理局に所属する者によつて組織される国鉄労組の下部機関であるが、右大分地方本部執行部の一部には、かねてより国鉄労組本部およびこれが加盟する総評などの運動方針に不満を抱き、国鉄労組の規約に反して同盟傘下の地方組織への加入を図るなど第二組合に共通な組織方針を指向する動きがみられ、ことに昭和三六年八月以降引き続き同地本執行委員長の地位にあつた訴外甲斐信一は大分鉄道管理局当局者と個人的にも密接な間柄にあつた。そして、右甲斐を中心とする一部組合幹部らは、国鉄労組中央本部などよりこれら第二組合的傾向について批判を受けるや、昭和三九年一〇月初旬からひそかに国鉄労組から脱退の準備に着手した。右のような動きを察知した国鉄労組中央本部は、中央斗争委員会を開き、同月八日組織防衛上やむなく大分地本執行委員会の機能および権限を停止するなどの決定を下したのであるが、右同日以降、前記甲斐信一ら旧執行部を中心とする国鉄労組脱退ならびに新組合結成の動きは公然化し、かつきわめて激しいものとなつた。しかも、これに先立ち右脱退派幹部が同月七日頃開いた会合では、多数職員らをして国鉄労組を脱退せしめ、新組合に加入させるための具体的方策として、部長、課長、現場長会議などを通じて管理職の協力を求めることまでも協議されているのが実情である。

以上、国鉄当局が過去において第二組合の育成に熱心であり、そのためには敢えて不当労働行為をも辞さない態度をとつてきたこと、甲斐信一ら旧執行部の指向がまさに第二組合的であり、新組合の組織活動にあたつても従来からの管理職との結びつきを利用し、その協力を得る方針でいたことなどの経緯は、本件不当労働行為の背景的事実として問題とされている個々の行為の判断に際しても留意されるべきである。なお、昭和三九年一〇月八日以降相当数の組合員が国鉄労組より脱退し、右脱退者をもつて同月一六日夜甲斐信一を初代委員長とする国鉄大分地方労働組合が結成され、その後右新組合は新国鉄労働組合連合に加入した。

(ロ)  大分鉄道管理局の動向

前記のように昭和四〇年一〇月八日を契機として、甲斐信一ら脱退派幹部の組織活動が表面化するにともない、管内各地において、駅長、助役らの現場職制が組合の組織問題について介入的言辞を弄しているとの情報がひんぴんとして国鉄労組側にもたらされた。そこで中央本部指令によつて大分地本執行委員長代行を命ぜられた中田哲夫は、翌九日中央本部から派遣された神戸中央本部副委員長らをまじえて、日吉大分鉄道管理局長らに緊急に会見を求め、その席上「ただちに下部機関の幹部に局長から不当介入のないよう指示されたい」旨申し入れた。しかるに、その後も脱退推進活動に対する下部職制の支援的態度が改まつたとみられないところから、同月一二日国鉄労組側は再度局長に警告を発するとともに、同日公労委に対し本件不当労働行為事件の救済命令申請を行つた。さらに同月一四日には大分電務区の施設管理者において、同電務区四階講習室を甲斐ら脱退派がその活動のための事務所として使用しているのを放置黙認している事実も判明したため、即日国鉄労組側は局長にその理由をただし抗議を行なつた経緯も存在する。右のような経過の間に管理局長は国鉄労組側の強い要求によつて、やむなく下部機関に対し「労働組合の組織問題については、管理者は常に厳正中立の立場をとるよう」指示を発することを約束するにいたつた。

5  被告補助参加人の主張に対する原告の答弁

(イ)  本件事件の背景のうち、(A)について

国鉄労組が昭和二一年に結成されたこと、その目的が国鉄労働組合員の生活と地位の向上をはかる全国的組織の労働組合であること、補助参加人主張のとおりの事情で主張のごとき内容の政令第二〇一号および公労法が制定されたこと、国鉄労組が行つた斗争に際し列車の運休遅延その他正常な業務の阻害行為に対し、責任者として原告が組合役員らの解雇、その他の懲戒処分を行つたこと、昭和三二年頃から国鉄労組には全国かなりの地方において組織分裂が生じたこと、それら離脱者らによつて新たな組合が結成され、ついでそれらの組合の多くによつて新しく全国的組織として新国鉄労働組合連合が結成されたことはいずれも認める。「それ以後の数年間国鉄労組は団体交渉の活用と公労委による調停仲裁制度の機能に期待して、ストを中止させ、順法的態度を明らかにした」ということ、「本来の団体交渉としての実質を有しなかつた」ということ、「原告は団体交渉を拒み」ということ(ただし公労法第四条第三項に適合する条件を具えた者が組合を代表する機関に選任されるまでの間、一時、すなわち昭和二九年五月二七日から同年七月一二日までの間および同三二年七月九日から同年一〇月三一日までの間団体交渉を拒否したことはある)、国鉄当局の支援のもとに、第二組合が結成されたということ、「右のような経緯からして、国鉄当局は第二組合に対してきわめて好意的な立場をとり、しばしば駅長、助役などの現場機関の職制を利用して、職員に国鉄労組からの脱退ならびに第二組合への加入をしようようするなど不当労働行為を行なつてきた」ということはいずれも否認する。金沢鉄道管理局および新潟鉄道管理局管内において、補助参加人主張のとおり公労委によつて不当労働行為があつたと認定されたことはあつたが、これは補助参加人たる国鉄労組が申立をした不当労働行為救済申立中の一部について認定されたものであつて、同認定については事実誤認などを理由として、昭和三七年七月一九日その取消を求める訴訟を東京地方裁判所に提起している。その余はすべて不知である。

前同の(B)について

国労大分地方本部が、国鉄労組の組合員のうち大分鉄道管理局に所属する者によつて組織される国鉄労組の下部機関であること、大分地本執行部の一部にはかねてより国鉄労組本部およびこれが加盟する総評などの運動方針に不満を抱き、国鉄労組の規約に反して同盟傘下の地方組織への加入を図るなど組織方針を指向する動きがみられたこと、訴外甲斐信一が昭和三六年八月以降引き続き同地本執行委員長の地位にあつたこと、昭和三九年一〇月初め国鉄労組中央本部が中央斗争委員会を開き、大分地本執行委員会の機能および権限を停止するなどの決定を下したこと、同年同月八日以降甲斐信一ら旧執行部を中心とする国鉄労組脱退ならびに新組合結成推進の動きが公然化し激しいものとなつたこと、右一〇月八日以降相当数の組合員が国鉄労組より脱退し、右脱退者をもつて甲斐信一を委員長とする国鉄大分地方労働組合が結成され、同組合が新国鉄労働組合連合に加入したことはいずれも認める。国鉄当局が過去において、第二組合の育成には熱心であり、そのためには敢えて不当労働行為を辞さない態度をとつてきたことは否認する。その余はすべて不知である。

(ロ)  大分鉄道管理局の動向について

昭和三九年一〇月九日国鉄労組中央本部から派遣された同神戸中央本部副委員長らが、日吉大分鉄道管理局長らに会見を求め、下部機関の幹部に局長から不当介入のないよう指示されたい旨の申し入れをしたこと、公労委に対し不当労働行為事件の救済命令申立をしたこと、右同月一四日国鉄労組側が局長に対し主張のごとき抗議を行つたこと、原告の大分鉄道管理局長が同年同月八日以降再三にわたり下部機関に対して、「労働組合の組織問題については、管理者は常に厳正中立の立場をとるよう」指示したことはいずれも認める。駅長、助役ら現場職制が組合の組織問題について介入的言辞を弄しているということ、脱退派が電務区四階講習室を事務所として使用しているのを、大分電務区の施設管理者が放置黙認しているということ、右管理局長が国鉄労組側の要求によつて厳正中立の指示発信を約束したということはいずれも否認し、脱退推進活動に対する下部職制の支援的態度が改まつたとみられないという点は争う。その余はすべて不知である。

第三当事者双方および被告補助参加人の証拠関係〈省略〉

理由

一、被告が、被告補助参加人国鉄労働組合から、昭和三九年一〇月および同四〇年六月の二回に、原告を相手方として申し立てられた公共企業体労働委員会昭和三九年(不)第一〇号・同四〇年(不)第一号日本国有鉄道大分鉄道管理局不当労働行為救済申立事件について、昭和四〇年一一月一日付で別紙命令(命令第二九号)に記載の内容による被告補助参加人組合の申立を一部認容した救済命令を出し、その命令書が同年同月二日原告に交付されたこと、右命令によると、大分鉄道管理局管内の別府駅、大分運転所および中津保線区の助役らが、使用者たる原告の利益を代表するいわゆる管理者たる地位にあるものとして、被告補助参加人組合の組合員らに対し、同組合を脱退するようにしようようし、また同中津保線区の助役が同組合の組合員の組合活動に干渉し、もつて同組合の運営に介入したとして、原告に対し、右助役らをして、謝罪の文書を同組合に交付させるとともに、同人らに今後それぞれ右のような行為を繰り返さないよう注意を与えるべきことを命じていることはいずれも当事者間に争いがない。

二、原告は、本件命令には請求の原因第二項に指摘するごとき事実認定上の違法があると主張するので、まずこの点について判断する。

(イ)  本事件の背景について

国鉄労組が昭和二一年に結成され、国鉄労働組合員の生活と地位の向上をはかることを目的とする全国的組織の労働組合であること、国鉄労組が昭和二三年七月のマツカーサー書簡による同年政令第二〇一号および同二四年の公労法制定以後、争議権を剥奪され、その代償として強制仲裁制度が設けられたこと、その後昭和三二年頃から国鉄労組には全国のかなりの地方において組織分裂が生じ、それら離脱者らによつて新たな組合が結成され、ついでそれらの組合の多くによつて新たに全国的組織として新国鉄労働組合連合(以下「新国労」という)が結成されたこと、国鉄大分地方本部は国鉄労組の組合員のうち大分鉄道管理局に所属する者によつて組織される国鉄労組の下部機関であること、大分地本執行部の一部にはかねてより国鉄労組本部およびこれが加盟する総評などの運動方針に不満を抱き、国鉄労組の規約に反して同盟傘下の地方組織への加入を図るなどの組織方針を指向する動きがみられたこと、訴外甲斐信一が昭和三六年八月以降引き続き同地本執行委員長の地位にあつたこと、昭和三九年一〇月初め国鉄労組中央本部が中央斗争委員会を開き、大分地本執行委員会の機能および権限を停止するなどの決定を下したこと、同年同月八日以降甲斐信一ら旧執行部を中心とする国鉄労組脱退ならびに新組合結成推進の動きが公然化し激しいものとなつたこと、右一〇月八日以降相当数の組合員が国鉄労組より脱退し、右脱退者をもつて甲斐信一を委員長とする国鉄大分地方労働組合が結成され、同組合が新国労に加入したこと、昭和三九年一〇月九日国鉄労組中央本部から派遣された同神戸中央本部副委員長が日吉大分鉄道管理局長らに会見を求め、下部機関の幹部に局長から不当介入のないよう指示されたい旨の申し入れをしたこと、右同月一四日国鉄労組側が局長に対して、大分電務区の管理者が同電務区四階講習室を甲斐ら脱退派がその活動のための事務所として使用しているのを放置黙認しているとし抗議を行つたこと、原告の大分鉄道管理局長が同年同月八日以降再三にわたり、下部機関に対して、「労働組合の組織問題については、管理者は常に厳正中立の立場をとるよう」指示したことは、いずれも原告と被告補助参加人との間には争いがなく、被告は明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

右の事実によると、大分鉄道管理局の管内には国労に属する組合と新国労に属する組合の二つの組織が対立併存することになり、両者間にはげしい組織上の紛争を生ずることになつたわけであるが、かような二つの労働組合間の争いは、当時の国労とその使用者たる原告との間の労使関係に険悪な対立状態を生ぜしめていたことは容易に推認されるところであり、以下に認定する事実はかような事情のもとに発生したものである。

(ロ)  被告の事実認定についての検討

(A)  渡辺溜関係事実

昭和三九年一〇月一〇日、当時別府駅首席助役であつた訴外渡辺溜が、たまたま同駅旅客掛(改札担務)で精算事務を担当していた訴外井上猪熊の部屋を通りかかつたところ、右井上が精算事務机のうえに国鉄労組の脱退届用紙をおき考えこんでいる風であつたことは当事者間に争いがない。成立に争いのない乙第三一号証の一部、同乙第四六号証のうち渡辺溜に対する審問部分の一部、同乙第四九号証のうち井上猪熊に対する審問部分、右乙第四六号証のうち中田哲夫に対する審問部分により成立を認めうる乙第一〇号証のうち渡辺溜作成の誓約書、証人渡辺溜の証言の一部および証人井上猪熊の証言を総合すると、右のように井上猪熊が思い悩んでいる風であるのをみた渡辺助役は、井上の妻を子供の頃から知つており、その両親とも古くから比較的懇親な関係にあつたため、平素より井上に親近感をもつていたところから、井上に対して、「管理局の職員はほとんど新国労に入つたから、君も心配せんでいいから早く国労への脱退届を書いて出したほうがよい」という趣旨のことを述べ、ついで翌一一日午前八時半に近い頃、井上が二四時間勤務の仕事を終える少し前、精算事務関係の書類や不足運賃などを駅長室に届けにいつた際、その場に渡辺助役が居合せたのであいさつをしたところ、同助役は井上に対し「昨日のは書いて出したか」という趣旨のことを述べたことが認められる。そして右認定に反する乙第三一号証、第四六号証のうち渡辺溜に対する審問部分および証人渡辺溜の証言の各一部はいずれもたやすく措信することができず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

この点について原告は、渡辺助役はただ単に「心配せんでもよい。適当にやつたらよい」と言つただけであつて、その発言は日常のあいさつと何ら異なるものではなかつたというが、前示各証拠によると、同助役の井上に対する発言が所論の程度のものではなかつたことが認められる。また大分鉄道管理局は原告本社と連絡のうえ再三にわたり管理者が厳正中立の立場をとるよう指示していたところから、渡辺助役の発言が井上に対する国労からの脱退しようようなどというような大それた効果を期待してされたものと解することはとうてい吾人の常識が許さないと主張し、大分鉄道管理局がその頃再三にわたり管理者に厳正中立の立場をとるよう指示したことは前示のとおりであるが、そのような事実があつたからといつて、渡辺助役が前示認定のごとき発言をしたと認定するにつき何ら妨げとなるものではない。なお、原告は乙第一〇号証のうち渡辺溜作成にかかる誓約書は同助役が心身疲労の果て、自己の意思に反して真実に反する事実を記載したものであると主張し、前示乙第三一号証および乙第四六号証のうち渡辺溜に対する審問部分、成立に争いのない乙第三四号証の一ないし一〇によると、原告の主張事実にそう部分があるが、他方、右乙第四六号証のうち渡辺溜に対する審問部分の一部、中田哲夫に対する審問部分に徴すると、本件命令の理由第二2(4)ロにおいて説示するとおり、国労大分地本執行委員長代行中田哲夫らの誘導によつて渡辺助役が右誓約書を書いたとしても、未だ同助役が事実に反することを書いたものとは認めがたく、原告の主張にそう前示各証拠はいずれも信用しない。

(B)  小野正三関係事実

昭和三九年一〇月一二日昼の休憩時間中に、当時大分運転所の助役であつた訴外小野正三が国労大分地本前執行委員長甲斐信一から、電話で同運転所修車掛の訴外足立直泰がいたならば、甲斐か訴外池辺睦男に連絡してほしいといつていた旨伝言してくれとたのまれ、同日昼休すぎ右運転所二階建庁舎前で足立に会つた際甲斐からの依頼を伝えたことは当事者間に争いがない。証人足立直泰の証言によつて右庁舎付近の図面および写真であると認められる甲第二号証の一、三、証人小野正三の証言によつて成立を認めうる甲第二号証の二、成立に争いのない甲第四九号証のうち足立直泰に対する審問部分によつて成立を認めうる乙第一一号証の一部、成立に争いのない乙第一九号証、同乙第三七号証の一、二、成立に争いのない乙第四九号証のうち足立直泰に対する審問部分および証人足立直泰の証言を総合すると、その際小野助役は右足立に対して、「甲斐前委員長が会いたいと言つているから会つてやらないか」という趣旨のことを述べたところ、足立は当時まだ国労に残るか新国労に移るか決心していなかつたが、もし甲斐に会うと強引に新国労に移るよう勧められることが必須であると思われたので、「助役さん、それは悪いわ」(会うのは困るから、会いたくないという意味)と答えたこと、かようにして二人は庁舎前を歩きながら問答をしていたが、小野助役は足立の肩に手をかけあたかも抱きかかえるような姿勢をとり、さらに重ねて「助役の立場からはいえないので、小野個人としていうのだが、甲斐に会つてやつたらいいじやないか、会つてやつてくれ」と繰り返し述べたので、足立は「甲斐には会いたくないが、池辺睦男になら会つてもよい」と答えたところ、小野助役は「それじや君は国労に残るのか」と語気を強めて述べたが、足立は「助役さんには悪いけれども私は残ります」と答えたことが認められる。乙第一一号証の一部、乙第三二号証、乙第四九号証のうち小野正三に対する審問部分および証人小野正三の証言のなかには、右認定に反する部分があるが、これらはいずれも信用せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。しかして右認定の事実および前に本事件の背景の項で説示した事実とを考えあわせるときは、小野助役は足立直泰に対し新国労を結成しつつある甲斐信一に協力してやつてほしい趣旨で前記のごとき発言をしたものと推認するのが相当である。

原告は、大分鉄道管理局が再三にわたつて管理者は厳正中立の立場をとるように指示したことから、小野助役に前示のごとき発言があつたとは考えられないというが、この点については前に渡辺溜事実関係の項で述べたと同じく、小野助役が前示認定のごとき発言をしたと認定するにつき何らの妨げとなるものではない。また小野助役が右のような発言をしたと認定することは甚だ不自然であり、かつ極めて予断的であるというが、右のように認定することが、必ずしも不自然であり、かつ、予断的であるとすることはできない。

(C)  古村達夫関係事実

(a) 小野一徳関係

昭和四〇年二月頃、当時中津保線区首席助役であつた訴外古村達夫が、同年同月一一日夕刻、中津市内所在のバー「ツアールスカヤ」で同保線区軌道掛の訴外小野一徳らに出会い同席したことは当事者間に争いがない。成立に争いのない乙第四八号証のうち小野一徳に対する審問部分によつて成立を認めうる乙第二二号証、成立に争いのない乙第三九号証の一部、同第四八号証のうち小野一徳に対する審問部分および同上のうち古村達夫に対する審問部分の一部を総合すると、前示小野一徳は当時国労の新田原線路班の班長の地位にあつたものであるが、同人と同僚の二宮軌道掛(当時国労組合員)の二人がバー「ツアールスカヤ」で同席し飲酒していたところ、前示のとおり訴外古村達夫首席助役が中津線路区の職員三名を同伴し右バーにやつて来て、小野、二宮と合流同席したこと、右席上で同席の六名の間で国労、新国労など労働組合のことが話題となつたが、その際古村助役は小野に対し「国労に残つていると大分に転勤させない。掛職試験を受けても、自分が中津にいても、大分の局に行つても通させない。それが困るなら新国労に行け」という趣旨のことを何回も繰り返し述べたことが認められる。乙第三九号証および乙第四八号証のうち古村達夫に対する審問のなかで、右認定に反する部分は信用せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(b) 上田百治関係

昭和四〇年二月二二日午後五時五〇分ごろ、中津保線区事務所において、同保線区技術掛の訴外上田百治と同坂本正勝が組合関係の問題について議論したことは当事者間に争いがない。成立に争いのない乙第四八号証のうち上田百治に対する審問部分によつて成立を認めうる乙第二三号証、成立に争いのない乙第三九号証の一部、同乙第四八号証のうち上田百治に対する審問部分、同上のうち古村達夫、坂本正勝に対する各審問部分の一部および証人坂本正勝の証言の一部を総合すると、前示上田百治は当時国労中津保線区分会執行委員の地位にあつたが、昭和四〇年二月二二日の退庁時間後も中津保線区事務所で残業に従事していたところ、古村達夫首席助役と新国労組合員である技術掛兼助役坂本正勝の両名が駅前付近の食堂「みなせ」で多少飲酒したのち、同日五時五〇分ごろ右事務所に帰つてきたこと、その際右三名の間で国労、椎田線路分区の組合員全員名義で作成し新国労施設部会長あてに提出された「要請書」と題する文書のことが話題となつたが、右文書は椎田線路分区の国労組合員は当分の間国労から新国労に移籍することをしないから、新国労の移転に関する一切のオルグを今後絶対に断わる旨申し入れたものであるが、その文書の原案を上田百治が作成したものであることを同人自身も認めたこと、坂本は上田に対し椎田線路分区の若い組合員の意思を束縛しており、また右要請書に押捺された印影につき印鑑盗用の事実があると述べ、上田を非難したりなどしていたが、その間にあつて、古村助役は上田に対し、「椎田線路分区の方は漸次新国労に加入するように勧誘しようと思つている。若い前途のある青年を自分に背かせると、前途の支障になるから、そういう支障になるような勧誘はやめたがよい」という趣旨のことを何度も繰り返し述べたことが認められる。乙第三九号証、乙第四九号証のうち古村達夫、坂本正勝に対する各審問部分および証人坂本正勝の証言のうち、右認定に反する部分はたやすく措信せず、他に右認定を妨げるに足る証拠はない。

次いでその後古村助役が上田、坂本の両名に酒を呑みに行こうと言い出し、三名がともに中津市内の酒場「二八万石」に赴いたことは当事者間に争いがない。証人坂本正勝の証言によつて酒場「二八万石」の店内の一部の写真であることが認められる甲第三号証の一二、前示乙第二三号証、同乙第三九号証の一部、同第四八号証のうち上田百治に対する審問部分、同上のうち古村達夫、坂本正勝に対する各審問部分の一部および証人坂本正勝の証言の一部を総合すると、右酒場「二八万石」でも前とほぼ同様な話が続けられ、とくに坂本は国労の組合運動のあり方を非難したりなどしたが、ここでも古村助役は上田百治に対して、「椎田線路分区の国労の組合員を少しずつ新国労に勧誘しようと思つているから、その邪魔をするな。自分には局長がついている。自分はそのうち局の方にいつて人事を扱うことになるかも知れない。若い青年が自分にたてつくと損をすることになるから、若い者が国労に残るような勧誘をするな」などという趣旨のことを繰り返し述べたことが認められる。右認定に反する乙第三九号証、乙第四八号証のうち古村達夫、坂本正勝に対する各審問および証人坂本正勝の証言の各一部はいずれも信を措くに足らず、他に右認定を妨げるに足る証拠はない。

(ハ)  結語

以上に説示したところによると、本件命令が渡辺溜、小野正三および古村達夫の行為として認定した事実は、細部については格別、その大綱はこれを十分に肯認することができる。したがつて、本件命令には原告主張のごとき事実認定の誤りを犯した違法があるとすることはできず、その主張は失当たるを免がれない。

三、原告はさらに、本件命令には請求の原因第三項に述べるごとき事実認定および法解釈上の違法があると主張するので、次にこれについて検討する。

(イ)  各助役の行為と使用者たる原告の責任

原告はまず、本件命令の対象とされている渡辺溜、小野正三および古村達夫の三助役につき、一般的に原告の代理権を与えていないことを理由として、右三助役の支配介入行為の責任を原告に帰せしめることは許されないと主張する。そして成立に争いのない甲第四号証の一ないし四、証人清成今朝義の証言によつて成立を認めうる甲第五号証の一ないし三、証人清成今朝義の証言および弁論の全趣旨によると、右三助役は管理者といつても比較的下級の役職であり、直接の上司たる駅長、運転所長または保線区長の指示命令にしたがつてこれを補佐し、その業務の処理を担当しているにすぎず、ただ上司が不在のときその業務を代理するだけであつて、一般的に原告の代理権を与えられているものでないことが認められる。しかしながら、不当労働行為の主体となるのは常に使用者本人またはその代表者ないし代理人に限るべきものではない。すなわち、通常使用者とは個別的労働関係における一方当事者であつて、他方当事者たる労働者に対し雇主たる地位にある者をいうのであるが、不当労働行為の一類型たるいわゆる支配介入の成否を論ずるときは、それが集団的労働関係における問題であるところから、その場合の主体たる使用者とは、雇主たる使用者のほか使用者の利益を代表する者(労働組合法第二条第一号参照)をも包含し、それらの者につき支配介入行為があつたときは、雇主たる使用者はその責に任ずべきものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、前記三助役が公共企業体等労働関係法第四条第二項に定める告示により労働組合法第二条第一号に所定の使用者の利益を代表する者に該当することは当事者間に争いのないところであるから、三助役のした介入行為につき使用者たる地位にある原告はその責を負わねばならない。

原告はまた、三助役らを含む管理者に対し昭和三九年一〇月初め以来表面化した国労大分地本の組織上の紛争に際して厳正中立の立場を維持し、不当労働行為にわたるような行為に出ることのないよう度々指示しているから、上司の意思がそこにあり、いやしくも不当労働行為にわたるような行為に出ることは上司の意思に反する旨を十分に認識していたのであり、かような場合には使用者たる原告に三助役の支配介入行為の責を帰すべきではないと主張する。思うに現行法上における不当労働行為制度は、労働者の団結権を実質的に保障することによつて円滑な労使関係を形成することを目的とするものであり、そのため労働者の団結権を侵害し、もしくは侵害するおそれのある行為がなされた場合には、その結果を除去し、そのような行為がされなかつたと同様な状態に回復しようとするものである。してみれば、結果的に団結権を侵害し、もしくはそのおそれのある使用者もしくはその利益を代表する者の言動は、それが行為者の認識のもとに行われたものである限り、その主観的意図のいかんにかかわりなく、すべて不当労働行為に該当し、その結果を除去することが、右制度の趣旨にそうゆえんのものである。ただ団結権を侵害し、もしくは侵害のおそれのある行為であるか否かは、たんに外形的な使用者もしくはその利益を代表する者の外形的な行為だけでなく、当該行為のなされた当時における諸般の状況のもとにおいて具体的に判断することが必要である。たとえば相手方が詐術、欺計を用い、あるいは挑発したため、それ自体として不当労働行為とみられるような結果を招来したというような特別な事情がある場合には、右行為をもつて団結権を侵害し、もしくは侵害するおそれのある行為と評価することはできない。これを本件についてみるに、原告の大分鉄道管理局長が所論のごとき指示をしたことは前に認定したところであるが、このことはたんに大分鉄道管理局長ひいては原告が支配介入の意思を有するものでなかつたことを推認するにとどまり(このことが不当労働行為の成立を阻却するものでないことは前述のとおりである)、それ以上に三助役の行為が団結権を侵害し、もしくは侵害するおそれのある行為に該当すると評価することを妨げる特別な事情であるとすることはできないし、他に本件における全証拠を精査してみても、右にあげたような特別な事情のあつたことが認められないから、原告は右のごとき指示をしたことによつて三助役のした介入行為による責任を免れることはできない。

原告はさらに、右のような指示をしていたのであるから、三助役の介入行為はまつたく職務外の私的な生活関係においておこつたものであるから、これを原告の責に帰すべきではないと主張する。しかしながら、原告が所論のような指示をしたからといつて、それに反する三助役の行為が直ちに職務外の私的な生活関係においておこつたものであるということはできない。そればかりか仮に右三助役の行為が所論のごとく私的生活関係においておこつたものと評価しうるとしても、なお支配介入行為に該当するものといわねばならない。けだし、不当労働行為制度の目的を前示のごとく解すべきものである以上、使用者もしくはその利益を代表するものによつてされる団結権の侵害もしくは、そのおそれのある行為の労働者の団結権に及ぼす影響の点につき、それが職務上行われようと、職務外において行われようと、その間に何ら法律上の差異を見出し得ないからである。ただそれが職務外において行われたような場合には、相手方との特殊な身分関係などがあるなど特別な事情があるときに限り、当該行為を全体として支配介入行為とは評価し得ない場合があるというにとどまる。これを本件についてみるに、前示認定のごとく、渡辺溜助役が井上猪熊の妻を子供の頃から知つており、その両親とも古くから比較的懇親な関係にあつたところから、平素より井上に親近感をもつていたため支配介入的言動をしたとしても(前示二、(ロ)(A)参照)、そのような関係をもつてしては未だ前示特別な事情があるとみることはできないし、他にこれを認めるものはない。したがつて、原告は右三助役の支配介入行為についての責を免がれることはできない。

(ロ)  本件命令の主文の適法性

原告はまた、原告に対し助役らに謝罪文を出すように命ずることを内容とする本件命令は、業務命令の範囲外のことを命ずるものであつて違法であると主張する。

原告が公共企業体等労働関係法の規律を受ける使用者として多数の国鉄職員を雇用し、労働法上の主体たる地位をもち、国鉄職員をもつて構成する労働組合と団体交渉などをしていることは公知の事実である。原告がこのような法的性格を有する以上、使用者たる原告の利益を代表する者が組合の運営に支配介入したためその責任を負わねばならぬ場合に、労働委員会としては当該不当労働行為の救済を実現するため必要にして妥当と思料する一切の処分を命じうる権能を有するから、同委員会が使用者に対して、支配介入をした利益代表者に注意を与え、かつ、申立人に対して文書をもつて陳謝を命ずることは何ら差し支えないところであり、使用者がかような命令を受けた場合に、その内容を履行することは、当然に業務の範囲に属するものというべきである。その意味において、原告は労働委員会の命令を受けたときは、これに服すべき公法上の義務を負担し、各助役に対し命令所定の業務命令を出すべき義務を有する。したがつて、被告が原告に対し前示のごとき作為義務を命じたことには何らの違法も存しない。このことは、右助役らの行為が原告の意思にもとづかず、むしろこれに反したものであつたとしても、各助役の支配介入行為につき原告がその責に任じなければならぬこと前示のとおりであるから、その故にこの命令が不適法となるいわれはない。なお、三助役は本件救済命令の当事者ではないから、直接右命令に拘束される法律上の効果を受けるものでないことは原告の主張するとおりであるが、もし原告が前示業務命令を発したにもかかわらず、これに従わないときは相当な処分を受けることを免がれないであろう。

(ハ)  結語

してみれば、本件命令には原告主張のごとき事実上および法解釈上の違法があるとすることはできず、その主張もまた失当というほかはない。

四、よつて、本件命令の違法事由として原告の主張するところはすべて理由がないので、原告の本訴請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四条後段、第九三条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西山要 岡垣学 瀬戸正義)

(別紙)

命令書

(公労委昭和三九年(不)第一〇号・昭和四〇年(不)第一号 昭和四〇年一一月一日命令)

申立人 国鉄労働組合

被申立人 日本国有鉄道

主文

一 被申立人は、本命令交付の日から三〇日以内に、その職員渡辺溜(昭和三九年一〇月一〇日当時別府駅首席助役)をして下記一の文書を、小野正三(昭和三九年一〇月一二日当時大分運転所助役)をして下記二の文書を、古村達夫(昭和四〇年二月当時中津保線区首席助役)をして下記三の文書を申立人に交付させるとともに、同人らに今後それぞれ下記文書に記載するような行為を繰り返さないよう注意を与えなければならない。

記一

昭和三九年一〇月一〇日、貴組合の組合員井上猪熊に対して、貴組合から脱退するようしようようしたことについて、ここに遺憾の意を表します。

昭和  年  月  日

国鉄労働組合

中央執行委員長 鈴木清殿

渡辺溜

記二

昭和三九年一〇月一二日、貴組合の組合員足立直泰に対して、貴組合から脱退するようしようようしたことについて、ここに遺憾の意を表します。

昭和  年  月  日

国鉄労働組合

中央執行委員長 鈴木清殿

小野正三

記三

昭和四〇年二月一一日、貴組合の組合員小野一徳に対して貴組合から脱退するようしようようしたこと及び同月二二日、貴組合の組合員上田百治に対してその組合活動に干渉したことについて、ここに遺憾の意を表します。

昭和  年  月  日

国鉄労働組合

中央執行委員長 鈴木清殿

古村達夫

二 申立人のその余の申立ては、棄却する。

理由

第一申立ての概要

申立人国鉄労働組合は、被申立人日本国有鉄道が、昭和三九年一〇月から翌四〇年二月にかけて、大分鉄道管理局及び同局管内佐伯駅、豊後森駅、別府駅、大分運転所、中津駅及び中津保線区において、申立組合の組合員に対して組合脱退をしようようするなど申立組合の組合活動に対して干渉したが、これは、労働組合法第七条第三号の不当労働行為であるとして、本件申立てを行なつた。これに対し、被申立人は、この事実を否定し、申立てを棄却すべきことを求めた。

第二当委員会の認定した事実

1 事件の背景

国労大分地方本部は、かねてから国労本部の動きに対して批判的な動きを示していたが、昭和三九年一〇月に至つて、同月九日に地本臨時大会を開いて国労脱退の態度を決定する形勢となつた。これに対し、国労本部は、一〇月八日中央闘争委員会を開催して、同日以降大分地本執行委員会の機能及び権限を停止するなどを決定した。

しかし、国労大分地本では相当な数の組合員が国労を脱退し、一〇月一六日夜、前大分地本執行委員長甲斐信一らが中心となつて、国鉄大分地方労働組合(以下新組合という。)を結成し、新国鉄労働組合連合(以下新国労という。)に加入した。そこで、大分鉄道管理局管内には、国労と新組合の二つの組織が併存することとなり、両者間にはげしい組織上の争いが生ずるに至つた。

このような二つの労働組合間の争いは、当時の国労と当局の間の労使関係にもきわめて微妙な影響を与えつつあつた。

このような事情のもとにあつて、大分鉄道管理局は、本社とも連絡の上、昭和三九年一〇月八日以降再三にわたり、下部機関に対し、労働組合の組織問題については、管理者は常に厳正中立の立場をとるよう電話又は文書をもつて指示した。

2 申立事実の認定

(1) 国労脱退主謀者らに対するタクシー乗車伝票の発行について

申立組合は、大分鉄道管理局文書課長亀山正が、昭和三九年一〇月八日前国労大分地本執行委員長甲斐信一ほか国労脱退の主謀者やその「代理人」である安部万太郎弁護士らにタクシー乗車伝票を発行して同人らの活動について経費援助を行なつたと主張するが、次に述べるようにこの主張は認められない。即ち、

イ 以上の主張の根拠として、申立人は、一〇月八日午後五時すぎ安部弁護士がアポロタクシーの車で同地本建物にやつてきた際、運転手佐藤健吉がクラクシヨンを鳴らしていたので、国労大分地本青年部長富田公人は、同運転手のところにいつて乗車料金を支払い、これと引き替えに同弁護士が同運転手に渡した文書課長名入りのタクシー乗車伝票を入手したと主張する。

しかしながら、富田青年部長の証言によれば、佐藤運転手がクラクシヨンを鳴らして安部弁護士の乗車料金を請求していたというのであつて、同運転手が同弁護士から乗車伝票を貰いながら重ねてその料金を請求するというようなことは通常考えられないこと、この乗車伝票は、同日午後四時五〇分ごろ大分鉄道管理局文書課企画係長上野弥太郎が佐伯駅出札掛仲野職員に亀山課長宅まで資料を届けさせる際に使用したものと認められること、さらに同弁護士の当日の乗車料金は運転報告書の未収欄に記載され、その「料金責任者、得意先氏名」欄には、「国労甲斐正一」(甲斐信一の誤記と認める。)とあり、この未収料金は、後日に至つて甲斐信一の口座で支払処理されていると認められることなどからみて、富田青年部長が受けとつた乗車伝票が同弁護士の使用したものであると認定することはできない。

ロ その他、亀山課長が国労脱退主謀者に対してタクシー乗車伝票を交付してその活動に対し経費上の援助をしたという点については立証がない。

(2) 佐伯駅駅長高城道行の点呼の際の発言について

佐伯駅駅長高城道行は、昭和三九年一〇月九日午前九時ごろ行なわれた点呼の際

組合の分裂問題が起きているもようであるが、そのために感情的なまさつを起こして運転事故など起こさないように十分注意してほしい、幹部は不当労働行為をしないように注意してほしい、幹部のなかには組合員である者もいるがその人達も一面自分が幹部であることを自覚して自分の部下職員に感情のまさつを起こさせないよう注意してほしい。

という趣旨の訓示を行なつた。

高城駅長は、その前日の夕刻、管理局から電話で、国労に脱退問題が起きているから現場幹部は不当労働行為を行なわないよう注意せよとの指示を受けたので、翌朝の点呼の際前記の訓示を行なつたものである。

(3) 豊後森駅駅長秋吉元治の国労オルグ拒否について

申立組合は、豊後森駅の秋吉元治駅長が、昭和三九年一〇月八日以降、国労役員の駅構内におけるオルグ活動を拒否し、かつ、駅連合区の責任者にもそのことを指示し、他方、新国労役員の立入りはこれを認めていると主張する。

しかしながら、

イ 昭和三九年一〇月一〇日、秋吉駅長が国労広島地方本部執行委員和崎毅の豊後森駅休憩室におけるオルグ活動をやめさせたことがあるのは事実であるが、それは、同執行委員が昼の休憩時間(同駅の大部分の職員の休憩時間)がすぎてもなおオルグ活動を続けていたためである。

ロ また、秋吉駅長が周辺駅の駅連合区の区長であることから駅連合区内の各駅長(天ケ瀬駅ほか七駅)に対して組合のオルグ活動について電話で連絡したことは認められるが、それは、勤務時間中のオルグ活動は認めないというかねての管理局の方針を連絡したものである。

ハ 新組合側のオルグ活動については、申立組合は、具体的事実として、豊後森駅庶務掛有吉職員が勤務時間中に脱退者名簿をもつて職員間をまわつていたのを駅管理者は阻止しなかつたと主張するが、申立組合申請にかかる証人の証言によつても、有吉職員が勤務時間中にやつたかどうか明確でなく、また、同駅長は、オルグ活動については、国労に対してのみならず、新組合に対してもこれを認めないという方針であつたということからみて、申立組合の主張するような事実は認めることはできない。

(4) 井上猪熊に対する脱退しようようについて

イ 昭和三九年一〇月一〇日、別府駅首席助役渡辺溜は、同駅旅客掛井上猪熊が同人の机の上に国労脱退届の用紙を置いたまま悩んでいる様子であるのをみて、同人の妻をその子供のときから知つていた関係もあり、同人に対し、管理局の人はほとんど国労を脱退して新組合の方に入つたから、同人も心配しないで脱退届を出して新組合に入つた方がよいのではないかという趣旨のことをいつた。

翌一一日、井上職員は、勤務を終える少し前駅長室に書類を届けにいつたが、その途中渡辺助役に出会つた。そのとき、同助役から「きのうの出したか、心配せんでもいいから、出した方がいいぞ。」といわれたが、井上職員は、「時間がなかつたので、まだ考えていない。」と答えた。

ロ 一〇月一七日午前、国労大分地本執行委員長中田哲夫は、上記のような事実のあることを聞き、国労組合員三名とともに、別府駅駅長室において、渡辺助役に面会し、同助役から「誓約書」を徴した。この誓約書は、渡辺助役が井上職員に対して上記のようなことをいつたことを認めたものであり、その原案は中田委員長が書き、渡辺助役がこれを浄書して署名したものである。

渡辺助役は、この誓約書は、中田委員長ら四人の強要により恐怖心から事実にないことを書いたものであると主張する。同助役が狭心症の発作に対して恐怖心をもつていた事実は認められるが、同人がこの誓約書を書いた当時の駅長室の隣室には他に職員がいたこと、女子職員が電話取次ぎのためこの間駅長室に出入していたこと、渡辺助役自身外に出ようと思えば出られたと証言しており、かつ、現に数回駅長室から出たことなどから判断して、中田委員長らのたくみな誘導によつて渡辺助役がこの誓約書を書いたとしても、同助役が事実に反することを書いたものとは認められない。

ハ なお、申立組合は、渡辺助役がその他の組合員にも国労脱退をしようようしたと主張するが、具体的な立証はない。

(5) 足立直泰に対する脱退しようようについて

大分運転所助役小野正三は、昭和三九年一〇月一二日の昼の休憩時間中、甲斐前委員長から、電話で同運転所修車掛足立直泰に対する連絡を頼まれた。同助役は、同日昼すぎ、運転所二階建庁舎前で足立職員に出会つた際これを呼びとめ、甲斐前委員長から電話があつて、同人又は渡辺睦男(前国労大分支部委員長であり、当時新組合結成のため行動していた。)に連絡してくれと伝えるよう依頼があつた旨伝えた。

この際、小野助役は、足立職員に対して、是非甲斐前委員長に会つてほしい、助役としての立場からはいえないが、小野個人としては、甲斐前委員長に協力してやつてほしい旨を迫つた。

(6) 小林藤夫の組合活動に対する干渉について

申立組合は、中津駅助役竹下俊夫が、昭和三九年一一月一三日午後〇時四〇分ごろ、中津駅運転室前の上りホームにおいて、国労から一度脱退し再び国労に復帰した同駅構内作業掛小林藤夫に対して「お前また国労へいつたのか。つまらんじやないか。」といつたと主張する。しかし、竹下助役は、そのようなことをいつたことはないと証言し、小林職員は当委員会が求めたにもかかわらず証言を行なわなかつた。また、その他間接的な証言によつてもついに申立組合の主張する事実を認めることはできなかつた。

(7) 小野一徳に対する脱退しようようについて

中津保線区首席助役古村達夫は、昭和四〇年二月一一日夕刻、同保線区の職員三人(ともに新組合組合員)とともにバア「ツアールスカヤ」にいつたが、そのとき国労組合員である同保線区軌道掛小野一徳が同保線区の職員(新組合組合員)といるのに出会い、これら六人が同席するに至つたが、そのとき、話は国労・新国労など労働組合の問題になつた。そして古村助役は、小野職員に対して国労に残つていると大分に転勤させない、掛職試験を受けても通させない、それが困るなら新国労にいけという趣旨のことをいつた。

(8) 上田百治の組合活動に対する干渉について

昭和四〇年二月二二日午後五時五〇分ごろ、国労中津保線区分会執行委員である中津保線区技術掛上田百治が保線区事務所において執務していたところ、先に駅前で少し酒をのんできた同保線区の古村助役及び新国労組合員である同保線区技術掛兼助役坂本正勝が入つてきた。そして、三人の間で椎田線路分区組合員の「要請書」のことが話題になつた。この要請書は、国労組合員が新国労のオルグ活動を断わる旨記したもので、その原案は上田執行委員が作成したものである。坂本職員は、上田執行委員が椎田分区の若い国労組合員の意思を束縛しているとして同執行委員を非難した。この間にあつて古村助役は、同執行委員に対して、若い青年の前途の支障になるような勧誘はするなという趣旨のことを発言した。

それから、古村助役は、上田、坂本両人に酒をのみにいこうといいだし、三人は酒場「二八万石」にいつて、そこでまた話が続行され、坂本職員は国労の組合活動のあり方などを非難した。

古村助役は、ここでも、上田執行委員に対して、「自分は椎田分区の国労の組合員を漸次新国労の方に勧誘しようと思つているので、その邪魔をするな、自分には局長がついている、若い前途のある青年を自分に背かせるようにすると彼等の損になる、自分は将来局の人事を扱うところにいくようになるかもしれないので、若い青年に自分にたてつかせると彼等の損になるのだから、若い者に国労に残るように勧誘するのはやめなさい。」という趣旨のことを繰り返し発言した。

第三当委員会の判断

1 第二・2・(1)及び(6)については、申立事実は認められず、これらに関する申立組合の主張は理由がない。

2 第二・2・(2)については、当時国労組合員の大量脱退問題が起きているという極めて微妙な時期であつたことから、たとえ申立組合の主張するように、高城駅長の訓示をきいた職員のなかに駅長が主任、兼務助役の者に対して国労脱退をしようようしていると感じた者がいたとしても、同駅長の訓示は、当時の駅長の職責上当然の内容のものであつて、これをもつて組合の運営に介入したものということはできない。

第二・2・(3)については、秋吉駅長が勤務時間中における申立組合のオルグ活動を認めなかつたことは当然である。また、同駅長は、新組合に対しても同様の態度をとつていたのであるから、同駅長の行為をもつて不当労働行為であるとすることはできない。

3 第二・2・(4)・(5)・(7)及び(8)について

当時の状況は、第二・1で述べたように、国労から大量の脱退者がでて、大分鉄道管理局管内では二つの労働組合が対立し、きわめて微妙な情勢にあつた。それだからこそ、当局も現場幹部に対して再三にわたつて、厳正中立の立場を維持し不当労働行為を行なうことのないよう指示を与えていたものであつて、現場幹部は平素より以上にこの点につき慎重に配慮すべきであつた。前記のような各助役の言動は、平素においても慎むべきものであり、ましてや前記の状況においてなされた以上は組合の運営に介入したものと評価せざるをえない。

ところで、各助役は被申立人の利益を代表するいわゆる管理者であるから、被申立人が、前記のような指示を各現場幹部に行なつていたからといつて、それら助役の行為につき、被申立人は、不当労働行為の責を免れるわけにはいかない。そこで、救済命令の内容としては、上記のような事情を勘案し、主文の如きものをもつて、もつとも適切妥当なものと認める。

よつて当委員会は、公共企業体等労働関係法第二五条の五第一項及び第二項並びに公共企業体等労働委員会規則第三四条を適用して、主文のとおり命令する。

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